- Star Dust Night -
「…驚かないんだね?」
尋ねたマークに、アシュレイは微笑った。
「何の事ですかぁ?」
軍師マークは、旅の途中で奇妙な三人組を拾った。…というか、行き倒れを一人拾ったら、後で二人合流して軍に居着いてしまった。
行き倒れていたのは軍師見習いだという、アシュレイ。後からやってきた二人、フェイとリュージュは、ただの興味本位で同行するのだと断言し、その言葉通りマーク達一行とはつかず離れずの関係を保っている。
そしてアシュレイもまた、軍師見習いだと言った割にはマークの指揮する軍に積極的に関わろうとしなかった。本人曰わく、見学らしい。たまに周囲の驚く程精密な地図を描いてきてマークに手渡したり、マークの気が回らなかった所を質問して注意を促すくらいだ。
話が横道に逸れてしまったが、取り敢えずマークの質問には、二つの意味が込められている。
マークは今、フェレの公子エリウッド達の側について、ネルガルに操られた暗殺集団、黒い牙と戦っている。だが何を隠そう、マークはその黒い牙の出身であった。そしてその事を話した時…アシュレイは、あっさりとそれを受け入れた。特に何の疑いも、抱かなかったようなのだ。
そして二つ目。そのような事情があって、マークはその気になれば気配を消す事ができる。だがどうやら、アシュレイには通じていないようなのだ。いや、マークに限らず、アシュレイは周囲の気配には異様なまでに敏感だった。今だって、マークはアシュレイを少し脅かそうとして、わざと後ろから気配を消して近付いた。なのに、アシュレイは背中に目がついているかのように、黙って横によけたのである。
アシュレイは与えられた宿の一室で、椅子に腰掛けてぼんやりと窓の外を眺めていた。横によけた事で、マークにもベッドに座る余地ができる。ちなみにアシュレイの連れは、今は部屋にいない。
「私の事。…いつ気付いたの?」
アシュレイと同じように外の星空を見ながら、マークは返事を待つ。
「ノックもせずに入ってきた事でしたら、それは最初っから気付いていました。自分には、そういう“能力”がありますのでー」
「そうなんだ。じゃあもしかして、私が黒い牙だった事も?」
「いいえ、それは全然気付きませんでしたよ。でも、マーク様はマーク様でしょう?黒い牙でも、そうでなくても、行き倒れてる旅人を見たら、きっと拾ってくれたでしょう?」
マークは返す言葉に詰まった。本当はとても何かを言いたくてたまらないのに、それがどうしても言葉にならなくて。
二人はただ黙って、星空を見上げていた。
ややあって、今度はアシュレイの方からぽつりと問う。
「…『碧き血』はご存知ですかぁ?」
「名前だけは。どこかの…多分エトルリアの軍閥貴族だって。いわゆる『優秀な』軍師が多いって話も聞いたよ」
「では、『浅葱の葉』は?」
「!! アシュレイ…!それって、とても大きな毒薬組織だよ!?」
アシュレイは寂しそうな表情をした。
「浅葱の葉は、浅葱色…碧の、刃。碧き血の一族の、組織でした。…少なくとも、私のいた世界では」
「え、どういう…」
わけが分からない、といった顔のマークに構わず、アシュレイは続ける。
「そして私は…最後にして純血の、『碧き血』だった……」
マークは絶句する。アシュレイは、自分がその裏組織に大きく関わっていたと打ち明けたのだ。
ふと、アシュレイは笑んだ。遠い昔を懐かしむような笑みだ。
「心配いりませんよ、マーク様。自分は、昔ここと非常によく似た世界で、ちょうど今のマーク様みたいに軍師をしていました。向こうの世界のエリウッド様は、自軍の軍師が『碧き血』で、浅葱の葉の最高責任者だと知ってもこれっぽちも気にしませんでしたから。こっちの世界のエリウッド様だって、きっと気にしないと思うんですぅ」
「あ…。うん、そうだよね!」
「ええ」
二人の軍師は、顔を見合わせて笑った。そして、もう一度晴れ渡った夜空に広がる満天の星を見上げた。
夢幻玉章の木菟伶様より頂きました、相互リンク記念作品です!
最初の台詞を見た途端、マークの登場に物凄い興奮してしまって一気に読み込みました。
マークの葛藤や歯がゆさをよく表現されてますし、おっとりながらもシリアスなアシュレイさんがかわいくて様になってて、私は幸せ者です(笑)
素敵な小説をどうもありがとうございました! これからもよろしくお願いしますね。
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